2014年9月26日

精神分析トゥィーティング・セミナー:フロイト・ハイデガー・ラカン, 16 September 2014



16 September 2014 : 緩和ケアと根本治療; ごまかしはもう効かない; Gestell, 総召集体制は,死の本能と等価である.

まず,藤田先生のことで誤解しないように願います.彼は,eating disorder の女性の心理学的状態が豊胸手術により安定化したという例をたまたま幾つか観察し,その知見を限られた場所で語っただけであり,豊胸手術を eating disorder の特効的治療法として推奨しているわけでは全くありません.

豊胸手術の心理学的効果は,a / φ の構造に準拠すれば,鏡の段階における理想自我の形成として理解されます.

ともあれ,存在論的穴に,より désirable な仮象 a を代入することにより得られる therapeutic な効果は,もしかしたら何年も持続するかもしれませんが,それでも,かりそめのものです.

その場しのぎであっても,とりあえず苦しみをやわらげることができればよい,という考え方は,勿論成り立ちます.例えば,癌末期のモルヒネによる緩和ケアは,余命の限られた患者さんの quality of life の維持のためには必要不可欠です.

同様に,自殺の危険性が切迫している場合や,自傷行為を繰り返す自閉症児などにおいては,まずは,状況に適した仮象 a を提供することによって存在論的構造 a / φ を安定化させることを優先させねばなりません.

精神分析は,言ってみれば,そのような palliative care がもはや無効となったときに,初めて選択され得ます.そして,今,あなたが日常生活のなかで居心地悪さを多かれ少なかれ感じているとすれば,それは,ごまかしはもう効かない,ということの sign なのです.あなたはどうしますか?

政治状況や政治家を「精神分析」するのは,精神分析家の仕事ではありません.しかし,現代という時代について Heidegger が言っていることを知っておいても良いでしょう.

今や「現代」ではなく post-modern だと思いますか?いいえ,今なお現代です.Nietzsche のときと同じく,ニヒリズムの時代です.

Heidegger は,科学技術に支配された現代の存在構造を Gestell と名づけます.この表現は,Gestellungsbefehl, 戦時下の「総動員命令」に由来すると言われています.ですから「総召集体制」と訳してみましょう.

総召集体制においては,存在事象すべて,存在全体が,召集されています.何に召集されているのか?資本主義的生産のため,つまり,資本の自己増殖のためにです.

科学技術の本質は,あらゆる存在事象を生産のために召集することを可能にすることに存します.

たとえば,原子力物理学は,本来なら利用し得なかった原子核内のエネルギーを資本主義的生産のために利用可能にします.それにともなって如何に厄介な放射能が副次的に発生しようとも,資本の自己増殖に寄与し得るかぎり,おかまいなしです.

総召集体制 Gestell においては,人間も,生産に利用し得る限りでしか問題になりません.年齢,性別,国籍,文化的・歴史的背景等々の差異的特性を消し去り,ただ単に労働力としてのみ,人間を動員します.

総召集体制において,差異的特性の消去に抵抗する民族的集団や,労働力に勘定され得ない障碍者や病者がどう扱われるかは,nazisme において起きたことを想起すれば,わかります.

Gestell においては,構造 a / φ における同一化の signifiant a は,無きに等しくなります.それゆえ,と Heidegger は言います,Gestell Ereignis の前段階なのである.

この主張は,Marx の主張を思い起こさせます:資本主義が最も高度に発展したときにこそ,共産主義が成立し得る.

総召集体制 Gestell は,あらゆる伝統的な identification を無効にする死の体制です.

今,世界的に起きている nationalisme の強まり,宗教的 identity の強調は,Gestell の抹殺的効果に対する抵抗です.

大学の言説の構造のものである民主主義は,本来なら,Gestell の破壊的効果に歯止めをかけねばなりません.しかし,資本の言説の手先である liberalism を自認する勢力によって,民主主義のそのような抵抗は無効にされてしまいます.

Gestell によりあらゆる仮象的徴示素 a が破壊されたとき,存在の真理の穴があらわになります.そのとき,死からの復活が成起し得ます.

こう説明してくると,Heidegger の言っていることは,聖書に書かれてあることを踏まえている,と気がつきます.それは,黙示録的事態です.天の御国が近づいてくると,天変地異,大災害が起こります.その後,神の支配が実現します.旧約聖書のノアの神話も本質的に同じです.洪水によってすべてがほろび,その後,死からの復活が起こります.

日本の現政権は,Gestell の手先です.日本を地球的規模の物理学的破壊の動きに委ねようとしています.

Ereignis のために必要とされているのは,物理学的破壊ではありません.そうではなく,差別の構造を惹起する徴示素的同一化の解体です.

精神分析が目ざすのも,同一化の解体としての分離です.

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