30 September 2014 : 心的エネルギーについて; affect と passion du signifiant ; より聖人であるほど,より笑う; 陽気な知,gai
savoir ; Mother Teresa の笑顔の美しさ.
Télévision の
affect に関する部分を読んでみましょう.
まず,エネルギーに関してですが,Lacan は,エネルギーはひとつの物理量であることを指摘します.エネルギーは,数式で計算される量ですから,言葉の次元の外のものでは全くありません.
エネルギーや力という語から,Star Wars の Force のようなものを思いうかべるかもしれませんが,Star Wars はただの作り話です.
次に
affect 情動ないし感情についてですが,ここでも,心理学に陥らないようにしましょう.そのためには,構造 a / φ をよりどころにします.
affect という語は,フランス語のなかでは比較的新しい語です.昔は affect が無かったので,Spinoza に出てくる affectus を affection と訳していました.ところが,Spinoza は affectio という語も用いているので,affectus と
affectio との区別が困難になります.だからというわけではないですが,ドイツ語から affect が輸入されました.
Lacan は,La signification du phallus の書のなかで,passion du signifiant という表現を使っています.passion は「熱情」であったり「受難」であったりしますが,この場合,或る作用を被ることです.
passion du signifiant は,構造 a / φ において,徴示素の作用を被ることです.そして,それは φ そのものです.
affect とは,passion du signifiant としての主体の存在の真理 φ そのものです
さて,いただいた御質問において問題になっている「悲しみ」のことですが,悲しみとは逆の affect を考えてみましょう.
Télévision で Lacan
はこう言っています:より聖人であるほど,より笑う.
聖人は,陽気なのです.
そして,聖人だけでなく,知も陽気です:gai savoir. 陽気な知.Nietzche も用いている表現です.
gai savoir においては,了解することはかかわっていません.むしろ,可能な限り意味をそぎ取ります.そして,解読を悦します.Jouir du déchiffrage. それはいったい,どういうことでしょうか?
gai savoir においてかかわる知は,当然,分析家の言説の構造において左下の真理の座に仮定される S2 です.gai
savoir は,この知 S2 を解読します.しかし,S2 そのものは,存在の真理の座に隠れたままです.
解読とは,真理の座に隠れたままの S2 を代理する徴示素 a を創造することです.
かくして,gai
savoir は,聖人と Joyce との間の仲立ちになるものだ,と言えます.
gai savoir は,存在の真理の座に仮定された知にもとづいて詩作することです.主体の存在の真理の métaphore を創造することです.
創造は,復活です.gai savoir の陽気さは,死からの復活の喜びです.
悲しみについては,gai savoir との対比において読解されます.une faute
morale, une lâcheté morale という表現を
Lacan は用いています.「気のゆるみ」と訳せます.
「欝は気のゆるみだ」などと言うと,まるで,欝病について無理解な人間が欝病の人を責めているようですが,そういうことではありません.
この「気のゆるみ」は,gai savoir の創造性を欠いている,ということです.何も創造せず,純粋に φ にとどまること.それが「気のゆるみ」,つまり,悲しみです.復活の要素は無く,喪に服したままです.
ともあれ,分析の終わりは,Bonjour, tristesse ! にとどまることに存するのではなく,逆に,Adieu, tristesse ! です.
Déchiffrage, 無意識の知の解読.それは,悦ばしき
sinthome の創造です.
死と喪の悲しみを去り,創造によって,詩作によって,復活の喜びへ至ること,それが gai savoir : 陽気な知です.
より聖人であればあるほど,よりよく笑う.
Mother Teresa の笑顔が想起されます.深い皺のきざまれた彼女の笑顔.それは,どんなに美しく化粧した若い女性の愛想笑いよりも美しい,と言えます.
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