2014年10月9日

精神分析トゥィーティング・セミナー:フロイト・ハイデガー・ラカン, 07 October 2014

07 October 2014 : 隣人をあなた自身のように愛せよ;欠如と欠如との分かち合い;男性分析家と女性分析家;逆転移について ; métaphore métonymie ; 解離と分離.

いただいていた幾つかの御質問に答えるよう試みてみましょう.

まず,マタイ福音書 22,39 等に記されているイェスの言葉ですが,それは,正確には,「自分自身を愛するように隣人を愛しなさい」ではありません.正しくは:

ἀγαπήσεις τὸν πλησίον σου ὡς σεαυτόν. 隣人を,あなた自身のように愛せよ.

この命令は,聖パウロのローマ書簡 13,8 の「他者を愛する者は,律法を満了した」と等価です.

隣人愛とは「隣人である他者を愛する」です.しかしそれは実は,「神である他 A を愛する」です.

そして,他 A は自己自身です.なぜなら,他 A 存在は,自己自身の存在であるからです.

そして,愛とは,存在における communion, Ⱥ φ との一致です.それは,Lacan の言う「分離」における「欠如と欠如との分かち合い」です.

A を自己自身として認め,かつ,他 A により自有されて,存在を分かち合い,存在において一致すること,それが「互いに愛し合え」という律法の満了です.

次に,分析家が男性である場合と女性である場合とで何か根本的な違いがあるのか,という御質問に対しては,否と答えられます.分析家が男であろうと女であろうと,精神分析の本質は「分離」に存します.

しかし,そこに至る前,転移神経症の形成に関しては,a が男性分析家であるか女性分析家であるかにより違いが出てくることもあります.特に,個人史における父や兄弟などとの関係,母や姉妹などとの関係の variation に応じて,転移において a に如何なる意義が付与されるかは違ってきます.

しかし,再度強調するなら,最終的には,分析家が男であろうと女であろうと本質的な相違はありません.

Lacan 派の精神分析が盛んな国々においては,女性の精神分析家はたくさんいます.男性よりも女性の分析家の方が多いだろうという印象を受けます.しかし,日本では女性分析家は非常に少数です.Lacanienne と呼び得る女性分析家が日本にいるかどうか,わたしは知りません.

山上千鶴子氏は,London でトレーニングを受けた kleinienne です.ほとんど完全な独立派で,日本精神分析協会にもほとんどかかわっていないと思います.わたしは彼女と直接の面識はありませんし,日本で彼女がどのような臨床をしているのかも全く聞いたことがありません.

逆転移に関しては,Lacan の教えにおいては,転移は徴象の次元において思考され,取り扱われるのに対して,国際精神分析協会とその系列の日本精神分析協会の分析家たちは,徴象と影象との区別を知らないがゆえに,転移において影象的関繋のなかに巻き込まれてしまいます.

Lacan 派の分析家も,a - a' の影象的関繋から全く無縁になったわけではありませんが,しかし,徴象的関係の観点にもとづいて,影象的関繋がはらむ攻撃性を相対化し,それに対処することができます.

次に métaphore métonymie とについては,Lacan はそれらの用語の伝統的な解釈には全くとらわれず,独自の概念化を行っています.

métonymie は,徴示素 a により代表されていない限りでの φ そのものです.φ は,徴示素 a に拘束されない限りで,際限無く横滑りして行きます.その横滑りが déplacement métonymique metonymia 的変移」です.

それに対して,métaphore a / φ の構造そのものです.signifiant a による Bedeutung φ の代理・代表,それが métaphore です.

métaphore métonymie とについては,伝統的な修辞学の範囲内で考えるのではなく,Lacan の構造論にそって考えねばなりません.

Schizophrenie における néologisme も,Joyce Finnegans Wake も,ともにひとつの métaphore です.それらは,無からの創造であるのと同じく,死からの復活でもあります.

解離と分離とについては,両者は全く別物です.分離においては,症状の構造 a / φ において a φ とが分離し,構造が解体されます.そして,それによって症状が解消されます.

それに対して,解離はひとつの神経症症状です.解離において,症状の構造 a / φ a の座に来るものが何であるかは,非常に多様です.他者 a においてimaginaire に捉えられたひとつの人格であったり,他者 a の欲望であったり,幻想であったり,様々です.いずれにせよ,解離においては,構造 a / φ そのものの解体は成起しません.


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