2015年11月19日

東京ラカン塾精神分析セミネール 2015-16年度:「文字の問い」,第五回,11月20日.

Lacan のテクスト:『盗まれた手紙についてのセミネール』をとおして文字の問いを問うために予備的に見てきた存在のトポロジーについて要約しておきましょう.

Lacan は存在のトポロジーを説明するために,投射平面 [ projective plane ] と呼ばれる閉曲面 [ closed surface ] をモデルとして用います.投射平面そのものは実数三次元空間へ embed することができません.そこで,その幾つかの可能な immersion のしかたのひとつ,cross-cap を Lacan は提示します:



投射平面は,ひとつの円板のエッジを成す諸点とひとつの Möbius strip のエッジを成す諸点とを一対一対応させつつ同一化することによって得られます:



上の図では,円板は半球面へ変形されています.そのエッジはひとつの円を成しています.それに対して,Möbius strip のエッジは,Lacan が huit intérieur [内巻きの 8]と呼ぶ曲線を描いています.

しかし,上の図で明かなように,円と内巻きの 8 とは相互に位相同型的 [ homeomorphic ] です.円を成す輪を連続的な変形により内巻きの 8 の輪にすることができます.したがって,確かに円板のエッジと Möbius strip のエッジを同一化することが可能である,とわかります.

それによってできあがる cross-cap においては,交線のように見える線分を成す諸点以外の曲面は円板に還元されます:



つまり,Möbius strip は実数三次元空間の外に解脱実存 [ ex-sistence ] しています.

こうして,実在 [ le réel ], 徴在 [ le symbolique ], 影在 [ l'imaginaire ] の三つの位 [ ordre ] と存在のトポロジーとの対応を把握することができます.すなわち:

実在 [ le réel ] は,解脱実存 [ ex-sistence ] として,Möbius strip ;
影在 [ l'imaginaire ] は,定存 [ consistance ] として,円板;
徴在 [le symbolique ] は,穴として,Möbius strip のエッジと円板のエッジとの同一化の閉曲線.

さらにまた,un signifiant représente le sujet pour un autre signifiant [ひとつの徴示素は,主体を,もうひとつのほかの徴示素に対して代表する]という Lacan の命題を,存在のトポロジーに位置づけることができます.

そこにおいて「主体」は,解脱実存です.つまり,Möbius strip です.つまり,実在です.

主体を代表する「ひとつの徴示素」は,投射平面を実数三次元空間において代表する曲面,つまり,円板です.つまり,影在です.

そして,「もうひとつのほかの徴示素」は,究極的には S(Ⱥ) であり,それは,「他の場処のなかの欠如の徴示素」として,穴です.つまり,徴在です.


ただし,この図における S1$ を即座に四つの言説における S1$ と混同しないでください.

以上を踏まえて,引き続き Lacan の Le séminaire sur « La Lettre volée » を読んでゆきましょう.

日時は,11月20日金曜日 19:30 - 21:00,

場所は,文京シビックセンター 3 階 C 会議室です.

参加のために事前の申込や登録は要りません.

テクストは各自持参してください.テクストの入手の困難な方は,小笠原晋也へ御連絡ください.

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