村上仁美:赦しの抱擁
村上仁美氏の作品集「生きている花の庭」出版記念作品展を見て
陶芸彫刻作家 村上仁美氏の作品集「生きている花の庭」出版記念作品展を 銀座の蔦屋書店内のギャラリーで 見てきた.
彼女の作品に初めて出会ったのは,2018年03月のことであった.
この「根の国」と題された少女の立像 — それは,Paul Delvaux の Femmes-arbres に着想を得ているが,その独創性は 下腹部に大きく口を開いている穴に存する — の衝撃は,今でも憶えている.それは,わたしが「否定存在論的孔穴」(trou
apophatico-ontologique, apophatico-ontological hole) —「否定存在論」(ontologie
apophatique, apophatic ontology) という用語を着想したのは
2016年のことである — と名づけた 源初論的な かつ 還元不可能な 穴(勿論,それは どこかに観察可能なものとして存在しているわけではない;しかし,それは,精神分析の臨床においては 無の穴,死の穴 そして 罪の穴として 経験される)そのものの 非常に見ごとな芸術的造形である.それをそのように成し遂げ得ているのは,わたしが知る限り,全世界で ただ村上仁美氏のみである.
それゆえに,わたしにとって彼女の作品のなかで特に印象に残るのは,「根の国」と同様の 女性の身体における否定存在論的孔穴の造形 — たとえば,2019年の作品 Wonderland in Alice — である.
今回の展示においても,期待どおりの すばらしい作品 — Janus
as a Pergola — に出会うことができた.
それは,前から見ると,白い植物少女であるが,後に回って見ると,黒い植物少女である.背中あわせのふたりは 互いに両手を握りあっている.彼女たちの皮膚表面には 蔦のようなものが絡まっている.そして,腹部には ふたりを貫く穴が 大きく口を開いている;その中は 薄ぐらい 深い森のなかのようであり,そして,腐敗した落ち葉のなかに蛆のようなものもわいている.死の穴としての否定存在論的孔穴の 無気味にして とても美しい 造形である.
しかし,村上仁美氏自身は,まもなく 新たな生命の誕生を迎えるところだそうである.そこで,彼女と 彼女の子のために 祈ろう:
神が あなたたちを 祝福し,護ってくださるように;
神が あなたたちに ほほえみ,恵みを与えてくださるよ
うに;
神が あなたたちを いつくしみ,あなたたちに平和を与えてくださるように.
Amen.
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