鈴木明日香,抱擁 (2017-2019)
鈴木明日香,麻睡 (2015)
鈴木 明日香 氏 の 芸術
2019年09月13-28日に 不忍画廊 で行われている展覧会で,鈴木 明日香 氏の作品に初めて出会った.特に印象的だったのが,上のふたつの作品である.いずれにおいても,穴(否定存在論的孔穴 : le trou apophatico-ontologique)が中心的な主題になっている.いずれも,穴からの現出,あるいは,穴からの呼びかけの無気味さを感じさせてくれる作品である.
不忍画廊の経営者,荒井 裕史 氏が絵画技法に関して解説してくださったところによると,「麻睡」の中心部分において裂け目から浮かび上がってきているように見える背中(anorexia nervosa の患者のそれを思わせるほど皮下脂肪を失ってしまっているむき出しの死的な背中)は,背景の上に描かれたものではなく,而して,まず先に背景を全面的に描き,あとから背景の絵具を部分的に溶かし落とすことによって,下地を浮かび上がらせる,という手間のかかる手法によって描かれている.つまり,実際に画面に裂け目を作り出す作業が行われているのだ.
この背中は,文字どおり,画面にうがたれた裂け目によって,画面の向こう側に隠されていた空間(存在事象の場所に対して解脱実存的 [ ex-sistent ] である在所)から存在事象の場所の方へ現れ出でてきている — 異状から分離への構造転換において,書かれないことをやめない不可能の在所から,書かれることをやめない必然のエッジへ現れ出でてくる主体 $ として.
その穴の中心 — 最も奥まったところ — に位置づけられた「目」(実際に「目」が描かれているのかどうか定かではないが,わたしにはそこに「目」が見える)は,我々をまなざしており,無数の手と腕によって我々を抱擁するために,我々をそこへいざなっており,我々に呼びかけている — 無気味にも.
乳白色に光る手と腕につけられた陰影は,Salvador Dalí の作品を想い起こさせもする.
Salvador Dalí, Métamorphose de Narcisse (1937), in Tate Modern
いずれの作品も,写真からは十分に感じがたい否定存在論的な無気味さを宿している.この機会に,是非,実際に鑑賞してみるよう,お勧めする.
小笠原晋也
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