開闢の穴と無からの創造
言語の構造において徴示素の座と被徴示の座とを区切る切れ目は,言語の構造の必要条件として,最も根本的なものであり,最も源初的なものです.
その切れ目は,徴示素の位の穴であり,Heidegger の用語で言えば Lichtung, clairière [朗場]です.したがって,それを der lichtende Schnitt, la coupure clairante と呼びましょう.日本語では「開闢の切れ目」です.それが穴としての徴在の位に相当する限りで,「開闢の穴」と呼ばれてもよいでしょう.
上にヨハネ福音書の最初の文の言い換えを提示しました.ヨハネ福音記者の言う源初的な Logos は,まさに開闢の穴です.その穴によって,Ⱥutre としての神は解脱実存します.
源初的な Logos の穴は,Lichtung として,創世記の冒頭に述べられている「無からの創造」の源初を成す「光が在れ」の光,Licht でもあります.
そして,ヨハネ福音書の源初的な Logos は,Lichtung として,Parmenides の ἀλήθεια でもあり,Herakleitos の Λόγος でもあります.
Lichtung は,言語の構造の学素において徴示素の座と被徴示の座とを分ける横線に相当しますが,徴示素の座に何も書かないのもさまにならないので,空集合の記号 Æ を便宜的に記入しておきましょう:
これが,源初的な Logos の構造です.源初的な Logos は,解脱実存 Ⱥ の穴そのものです.
Lacan 自身が用いた学素のうちでは,Lichtung を形式化するのは S(Ⱥ) です:
ともあれ,以上のように書記し得るとしても,このことを忘れないでください:すなわち,厳密に言って,Lichtung は,徴示素の座と被徴示の座との間の切れ目であり,源初的な Logos の構造においては徴示素の座は空座である.
源初的な Logos の構造は,そして,精神分析の過程が到達すべき終わりの構造でもあります.異状の徴示素としての a が仮象の座からすべて分離されて,主体廃位 [ destitution subjective ] が完了したとき,源初的な Logos の構造が回復されます. それが Heidegger の言う Ereignis [自有]です.
2015-2016年度 東京ラカン塾精神分析セミネール「文字の問い」,第12回:
日時 : 2016年02月05日金曜日 19:30 - 21:00,
場所:文京シビックセンター(文京区役所の建物) 5 階 D 会議室.
Lacan の Le séminaire sur « La Lettre volée » [盗まれた手紙についてのセミネール]の解説を継続します.
事前の申込や登録は必要ありません.
テクストは各自お持ちください.テクストの入手の困難なかたは,小笠原晋也へ御連絡ください : ogswrs@gmail.com
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