Works of Yayoi Kusama exhibited in Give Me Love.
朝日新聞 2015年5月21日付 記事より:
草間彌生の活動と表現が,86歳の今もその速度と密度を高めている.アトリエで思いを聞くとともに,New York City での新作展を美術史家の富井玲子氏に評してもらった.
New York Cityでの個展のほか,近作展なども南米やアジアを巡回中の草間.来客も多く,「疲れちゃう」とこぼしながら,朝から晩まで制作に没頭する.昼食時も,左手におにぎりやサンドイッチを持ち,描き続けることが多いという.
おもに描いているのは,2009年から続く「わが永遠の魂」のシリーズ.大画面にアメーバのような有機的な形や生物,人の顔が色鮮やかに描かれる.「頭の中にどんどん出て来ちゃうから手が追いつかない」と語るのは従来通りだが,近作は四周をフレーム状の帯が囲み,密度や構築性がより高まっている.
作品名には,青春,人生,愛,地球,自殺といった言葉が連なる.「(心の病と)闘いながら生み出してきたものが私を癒やしてくれる」と語り,「人や命,平和への畏敬の念が,作品のバックにはある」と言い切る.夜には,宇宙論や中東関係の本にも目を通すという.
アトリエ近くに昨年,プライベートな展示空間が完成した.そこで自作に囲まれると,「向こうから幻覚が出て来て,心が鎮まる」という.しかし何より,精神状態は「描いていると具合がいい」のだそうだ.
そして,こう語る:「倒れるまで,死にものぐるいで絵を描く.もっともっといい作家になりたい」.私たちは今後,新たな草間芸術と出あうことになるに違いない.
(編集委員,大西若人)
The Art Newspaper 紙によれば,草間彌生は,2014年,全世界の美術館における展覧会動員数第1位を達成したというが,今年に入っても,その人気は衰えるところを見せない.
週末の5月9日に New York City の David Zwirner Gallery で始まった個展 Give Me Love (6月13日まで)は,土曜日だけに子供連れの来場も多かった.ステンレススチールの鏡面仕立てで華やかな立体作品
Pumpkin にじっと見入り,カラフルな水玉のステッカーを貼り付ける参加型の The Obliteration Room のインスタレーションには,初日だけで千人以上の参加があった.
とはいえ,こうしたスペクタクルだけが草間の作品ではない.むしろ,長年の草間ウォッチャーとしては,本業 (?) の絵画での展開に目を見張るものがあった.
現代アートでは,Damien Hirst のように絵画制作を助手に任せることも日常茶飯事だ.しかし,草間の場合,2004年から着手した「愛はとこしえ」シリーズから「作家が描く」という原点に立ち戻った.最初は白地のカンバスにマーカーで線描した単純なものだったが,アクリル絵の具での本格的な描画に移行.2012年の Whitney Museum of American Art の回顧展,2013年の David Zwirner Gallery 個展でも新作絵画が多数紹介された.
本展では,制作のリズムに乗りながら直感的に展開していく草間流が全開.メリハリのある色使いに,随所に黒を大胆に効かせた画面は,ちょっとアフリカ風でパワフルだ.
画家の晩年様式は Rembrandt や Monet でも議論されるところだが,草間の近作は年齢を感じさせない.真摯に芸術に生きてきた草間は今,自由に絵画三昧にひたる至福の境地にたどり着いた.
(富井玲子,美術史家)
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