2021年8月10日

村上仁美氏の作品 Narkissos



村上仁美氏の作品 Narkissos



この 村上仁美氏による Narkissos と題された 手のことを なぜか ふと 思い出して,iPhone のなかに残っている写真を 探し出した.2020年01月12日に Parabolica-bis で行われていた展覧会の際に 撮ったものである.同一の作品は,その一年前,2019年01月に 画廊 Zaroff で行われた展覧会でも 見かけた.

Caravaggio (1571-1610), Narciso (ca 1594-1596)

周知のように,ギリシャ神話において,美少年 Νάρκισσος (Narcissus, Narcisse) は,自身の鏡像に情熱的に魅せられて,生きることを放棄し,死ぬ.彼がいた場所には,美しい水仙の花が咲く.

村上仁美氏の作品 Narkissos は こんな光景を想像させる : Caravaggio が描いた Narciso の 右手だけが 彼の死後 残り,下方へは その指先から 大地へ 根が生え,上方へは その手首から 水仙の花が咲き出る.

手の皮膚表面には,皮下静脈が浮き出たように 蔦がからまり,蜘蛛などの虫も這い回っている.

Paul Delvaux (1897-1994), Femmes-Arbres (1937)

村上仁美,根の国 (2017)

その意味では,この Narkissos は,彼女が Paul Delvaux の Femmes-arbres から得た着想のもとに 創作する 一連の作品 — その代表例が『根の国』— のなかに 位置づけられる.

しかし,ほかの諸作品が 村上仁美氏の自画像としての少女像であるのに対して,この〈Narkissos の換喩としての〉手は そうではない.

また,五つの指先だけで立つ この手の 不安的な立ち姿は,Mutter Erde[母なる大地]の形象としての 彼女の諸作品が有する ある種の安定性とは 対照的である.

彼女の Narkissos の手が印象に残っていたのは,それらの理由によってであったかもしれない.



「食卓 — 生(エロス)と死(タナトス)—」: 村上仁美氏の 修士制作と修士論文

Habemus artificem – 村上仁美氏の作品との出会い

村上仁美氏の 2018年の個展「常世の庭」を見て

村上仁美氏の個展 Signals from Faraway