Tulip
Tulip (detail)
Bud of Morning Glory
Datura
Datura (detail)
Peony
Peony (detail)
Peony
Peony (detail)
Peony (detail)
Medinilla Magnifica
Medinilla Magnifica (detail)
木村佳代子氏の芸術
Instagram に提示されている彼女の作品の写真に添えられている いくつかの hashtag 付きの単語のなかに見出される 物理学用語 event horizon と ergosphere は,彼女の描く 花 ないし 蕾 は それらの surréalité において black hole を保匿するものである,ということを 示唆している.そして,彼女の作品を実際に見ると感ぜられるが,まさに そのように みごとに描かれている.
我々は,black hole の代わりに,trou apophatico-ontologique[否定存在論的孔穴]と言う.その穴は,彼女の作品において,書かれないこと(描かれないこと)をやめない「死」から,書かれること(描かれること)をやめない「永遠の命」へと 昇華される.そのとき,否定存在論的孔穴は 終末論的にして源初論的な主体 $ の穴として 成起し,そして,そこから出発する「無からの創造」(creatio ex nihilo) として 芸術的創造は 成起する.
Heidegger は 芸術作品について こう言っている : im Werk ist das Geschehnis der Wahrheit des Seins am Werk[芸術作品において,存在の真理の成起が 現動的となっている].書かれないこと(描かれないこと)をやめなかった 存在の真理(主体 $ の真理)は,芸術作品という Dichtung[詩,虚構]において — その fictivité surréelle において — 書かれること(描かれること)をやめないものとして,現動的となる.
木村佳代子氏の作品は,そのことを 我々に 確かに証言している.そこにおいて,花弁たちは,ひとつの あるいは 無数の 裂け目を 美しく 形成する — その(それらの)裂け目こそ,否定存在論的孔穴の現在化である.
木村佳代子氏は,1971 年に 生まれ,1994 年に 東京芸大を卒業し,1999 年に 東京芸大博士課程を満期退学し,その後も,いたって順調に 画家としての芸術人生を歩んできているように見える.しかるに,彼女は,芸大に入る前に,尋常ならざる試練を受けていた:受験を控えた 高校 3 年生の冬,激しい腹痛と不正性器出血が 彼女を襲った.卵巣癌によるものと診断された.17 歳の 少女は,外科手術と 想像を絶する苦しさを伴う化学療法(抗癌剤治療)を 受けた.予後は 決して楽観できるものではなかった.しかし,奇跡的にも,癌の転移や再発は防がれ,完全治癒が得られた.
彼女の描く花の静謐さは,死と無の穴に直面しつつ 不安を耐え抜いた者による 神秘的な昇華の証言である.
具体的な素晴らしい「芸術作品」への言葉は、私にとっては、言葉の意味するところを、理解させていただくことに役立つように感じられ、素晴らしい作品とともに、その作品への言葉が意味する内容を理解することに、私なりの了解を、することができたように、感じました。ありがとうございます。
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