2016年6月1日

東京ラカン塾精神分析セミネール「文字の問い」 2015-2016年度 第22回,2016年6月3日

La psychanalyse est la phénoménologie pratique de la vérité de l'être en tant que désir de l'Ⱥutre qui veut se manifester

精神分析は,己れを示現せんと欲する他 Ⱥ の欲望としての存在の真理の実践的現象学である


Edgar Allan Poe の『盗まれた手紙』に準拠しつつ,無意識の解脱実存的在処 [ la localité ex-sistente de l'inconscient ] へ閉出 [ forclore ] された文字の作用について問う Lacan は,Dupin が大臣 D から手紙を取り戻したところで,つまり,大臣のもとで未決済のまま [ en souffrance ] (Écrits, p.29) であったものが,負債の必然的返済を要請する「律法の秩序」 (ibid., p.38) のなかへ戻されようとするときに,我々にこう問いかけます (ibid., p.36) 

« Si l’efficacité symbolique s’arrêtait là, c’est que la dette symbolique s’y serait éteinte aussi ? »
[もし仮に徴在の作用がそこで止むとするなら,徴在的負債もそこで消えたということであろうか?]

条件法が用いられていますから,実際には,徴在的負債は消えてはいませんし,徴在の作用もそこで止みはしません.

動詞の時制に注目するなら,« la dette symbolique s’y serait éteinte » の動詞は過去形であり,他方,« si l’efficacité symbolique s’arrêtait là » の動詞は,非現実仮定の条件節のなかの半過去であるので,意味のうえでは現在のことを指しています.

過去形ないし完了形で述べられていることの帰結として現在形で述べられている事態が生じているという連関を読み取るなら,上に引用した文には,「徴在の作用が止む」ことは「徴在的負債が消えた」ことの効果であり得るかという疑問が含意されており,それに対して Lacan は,徴在の作用が止んだわけでも,徴在的負債が消えたわけでもない,と否定的に答えています.

Le séminaire sur « La Lettre volée » のなかでは,Écrits, p.27 に「帳消し不可能な負債」と,まやかしの空手形のことが言及されています.

詐欺的な空手形が振り出されざるを得ないとすれば,それは,負債の返済が請求されており – しかも,執拗に (cf. la séance du 6 juillet 1960, Séminaire VII) –,かつ,返済は実際には遂行不可能であるからです.

不可能な返済を命令するのは,Freud が第二 Topik で Über-Ich [超自我]と名づけた心的機関,Lacan が「猥褻かつ無慈悲な形象」[ figure obscène et féroce ] (Écrits, p.360) と呼ぶ定言命令の声です.

「悦せよ!」または「返済せよ!」と容赦無く迫る超自我の定言命令は,しかし,欲望としての他 Ⱥutre の欲するところそのものであるのか?違います.超自我の声 a は,他の欲望 Ⱥutre を代理しているにすぎません.しかも,全く不適切なしかたで:


いずれにせよ,超自我という支配者により代理される他 Ⱥ の欲望こそが,人間の運命を条件づけています.

精神分析の終わりにおいては,超自我は支配者として廃位されねばなりません – 我々が猥褻かつ非情な超自我の実行不可能な定言命令から解放されるために.それこそが,超自我の定言命令に悦々と服従する Kant ならびに Sade の純粋理性倫理から精神分析の倫理を決定的に隔てるものです.

超自我-支配者の廃位においてこそ,他の欲望 Ⱥutre は神の愛として己れを示現し得るようになるでしょう.

東京ラカン塾精神分析セミネール「文字の問い」 2015-2016年度 第22回


日時 : 2016年06月03日,19:30 - 21:00,
場所:文京区民センター 2 階 C 会議室.

Lacan の Le séminaire sur « La Lettre volée » の読解を継続します.

参加費無料.事前の申請や登録は必要ありません.

テクストは各自持参してください.テクスト入手困難な方は,小笠原晋也へ御連絡ください : ogswrs@gmail.com

0 件のコメント:

コメントを投稿